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ヤマトの章 12 終わりの始まり 3

last update Last Updated: 2025-06-04 09:06:31

—来週はクリスマスイブだ。

最近身体の調子がおかしくなってきた。初めてその現象が起こったのは数日前。突然右手に激しい痛みが走り、手首から指先までかけて半透明に透き通り始めた。

「!」

それはほんの一瞬で、すぐに元に戻った。けれど僕は恐怖に震えた。ああ…とうとう始まったのだ。こうやって徐々に身体が消え、いずれ間宮渚と身体が一体化して僕の魂は消えていくのだろう。

嫌だ、消えたくない。だって僕はまだ千尋に肝心なことを聞いていないのに。

****

 この日の夜。

僕と千尋は里中さんと、先輩にあたる近藤という人と皆でラーメンを食べに行くことになった。近藤さんはとても気さくなタイプの人で、どうも千尋と里中さんの仲を取り持ってあげようと画策していたみたいだった。

でも僕は反対出来ない。だってもうすぐ消えてしまう僕に、千尋を縛り付けることは出来ない。

その後どういう話の流れか、里中さんも僕たちのクリスマスパーティーに参加することが決定していた。

****

——クリスマスイブ

ランチを食べに来ていた近藤さんが突然僕に声をかけてきた。

「間宮君、ちょっといいかな?」

「はい、どうかしましたか?」

「実は里中が高熱を出して寝込んでしまったんだ。悪いけど今日のパーティーは欠席させて欲しいと伝えてくれって言われたよ」

「え? 里中さん、大丈夫なんですか?」

「う~ん。あいつ一人暮らしだし、料理もしないから大変かもな。でもあいつには悪いけど余裕が無くて。今日はこっち、人手が足りないんだよ」

近藤さんは随分困っているようだ。そこで僕は閃いた。

「近藤さん、ちょっとだけ待っててもらえますか?」

厨房に戻ると責任者の人に午後から半休を貰えないか聞いてみた。すぐに休みの許可を出してもらうことが出来たので僕は近藤さんの元へと戻った

「近藤さん、僕が代わりに行ってきます。だから里中さんの住所教えてください」

 ****

 それにしても里中さんの部屋のマンションを開けた時は本当に驚いた。まさか部屋の真ん中で倒れているなんて思いもしなかった。が看病しに来たことを話すと照れ臭そうにお礼を言ってきた。…多分彼となら千尋は幸せになれるだろうな。でもそう考えると胸の奥がチリリと痛む。

 結局この日のクリスマスパーティーは中止になった。やっぱり里中さんに悪いからね。……大丈夫だよ。僕はいないけど来年もまたやれるんだか
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    —来週はクリスマスイブだ。最近身体の調子がおかしくなってきた。初めてその現象が起こったのは数日前。突然右手に激しい痛みが走り、手首から指先までかけて半透明に透き通り始めた。「!」それはほんの一瞬で、すぐに元に戻った。けれど僕は恐怖に震えた。ああ…とうとう始まったのだ。こうやって徐々に身体が消え、いずれ間宮渚と身体が一体化して僕の魂は消えていくのだろう。嫌だ、消えたくない。だって僕はまだ千尋に肝心なことを聞いていないのに。**** この日の夜。僕と千尋は里中さんと、先輩にあたる近藤という人と皆でラーメンを食べに行くことになった。近藤さんはとても気さくなタイプの人で、どうも千尋と里中さんの仲を取り持ってあげようと画策していたみたいだった。でも僕は反対出来ない。だってもうすぐ消えてしまう僕に、千尋を縛り付けることは出来ない。その後どういう話の流れか、里中さんも僕たちのクリスマスパーティーに参加することが決定していた。****——クリスマスイブランチを食べに来ていた近藤さんが突然僕に声をかけてきた。「間宮君、ちょっといいかな?」「はい、どうかしましたか?」「実は里中が高熱を出して寝込んでしまったんだ。悪いけど今日のパーティーは欠席させて欲しいと伝えてくれって言われたよ」「え? 里中さん、大丈夫なんですか?」「う~ん。あいつ一人暮らしだし、料理もしないから大変かもな。でもあいつには悪いけど余裕が無くて。今日はこっち、人手が足りないんだよ」近藤さんは随分困っているようだ。そこで僕は閃いた。「近藤さん、ちょっとだけ待っててもらえますか?」厨房に戻ると責任者の人に午後から半休を貰えないか聞いてみた。すぐに休みの許可を出してもらうことが出来たので僕は近藤さんの元へと戻った「近藤さん、僕が代わりに行ってきます。だから里中さんの住所教えてください」 **** それにしても里中さんの部屋のマンションを開けた時は本当に驚いた。まさか部屋の真ん中で倒れているなんて思いもしなかった。が看病しに来たことを話すと照れ臭そうにお礼を言ってきた。…多分彼となら千尋は幸せになれるだろうな。でもそう考えると胸の奥がチリリと痛む。 結局この日のクリスマスパーティーは中止になった。やっぱり里中さんに悪いからね。……大丈夫だよ。僕はいないけど来年もまたやれるんだか

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